Position
■ 設計事務所の役割
位置

建築の工事は一般的に、「施主」、「設計者」、「施工者」の3者によるものです。このうち、ゼネコンや工務店、ハウスメーカーなどが直接「施主」と契約して工事する場合は、「施工者」が「設計者」とを兼ねることになります。設計事務所は建築を設計し、工事の監理を行うことを業としていますが、その立場は「施主」と「施工者」のあいだに「独立して」入り、工事が問題なく完了させるという「監査機関」的なものでもあります。「施主」は、「設計者」と設計・監理契約を結び、「施工者」と工事請負契約をするのです。

「設計者」と「施工者」を同一の者が行うと、どうしても「施工者」のための設計になってしまいがちです。設計事務所がそうでないとは言い切れませんが、ゼネコンや工務店、ハウスメーカーなどは通常、建築の質を良くすることよりも、工事による利益を上げることに目を向けがちです。実際、営業その他の経費もかかっているわけであり、相応の利益率を上げる必要があるのも事実です。そのような会社に特命(一社にまかせて依頼すること)で工事を発注することは、適正な金額以上で契約してしまうことにつながります。「施主」と「施工者」のあいだで特別の信頼関係がある場合や、その「施工者」独自の技術力を必要とする場合などのほかは、あまり好ましいとは言えません。

また、「設計者」と「施工者」を同一の場合、監査機関としての機能が完全に果たせなくなってしまうという問題も挙げられます。建築事務所は工事監理として、逐次、工事が契約した図面どおりに施工されているかを現場でチェックします。建築のコストと質は相反するものであり、工事の契約をしたあとに「施主」のわからない部分を変更したりして建築コストを削減し、工事の利益を上げるということも実際に行われているのです。また、「施工者」の施工ミスなどにより建築の重要な部分などに欠陥が生じた場合でも、同一の者によって行われている場合には、修復すると大幅なコストがかかってしまうということであれば、そのまま隠されてしまうというケースもあります。そのため「設計者」は「施工者」と独立して契約する必要があるのです。

設計事務所に依頼すると設計料が発生するので、トータルの建築のコストが上がってしまうと考えられがちですが、必ずしもそうではありません。設計事務所に設計を依頼した場合、設計事務所は「施主」と打ち合わせして詳細な図面を作成し、通常、選定した数社に見積りを依頼します。直接「施主」が「施工者」と異なり、同じ図面による公正な条件で比較を行い、内容についても設計事務所がチェックするので余計なコストがかかる心配がありません。また、「施工者」に営業や設計などのコストがかからないので、直接依頼した場合に比べて工事の請負金額は低くなります。